2025年02月04日
- 認知行動療法
「痴漢行為」再犯防止カウンセリング

痴漢行為は、被害者に深刻な精神的・身体的影響を与えるだけでなく、加害者自身も社会的制裁や法的責任を負うことになります。しかし、中には「やめたいのにやめられない」と感じ、繰り返してしまう人もいます。そうした問題に対して、認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy: CBT)が有効な支援方法の一つとされています。本記事では、CBTを用いた再犯防止のアプローチについて詳しく解説します。
痴漢の再犯に影響を与える心理的要因
痴漢を繰り返してしまう人の中には、行動を後押ししてしまう特定の考え方や習慣が身についていることがあります。これらは本人にとっては「当たり前」の思考や行動パターンであるため、自力で改善することが難しい場合があります。
以下のような要因が、痴漢行為を繰り返す背景にあることが知られています。
1. 誤った思い込み
• 「相手が嫌がっていないのではないか」
• 「このくらいなら問題ない」
• 「一度やってしまったから、もう変われない」
こうした考えが、行動を正当化し、再発につながることがあります。
2. 衝動のコントロールが難しい
• 特定の状況(混雑した電車内など)で行動を起こしやすくなる。
• 衝動を感じたときに、すぐに別の行動をとることができない。
3. 行動が習慣化している
• 犯行が繰り返されることで、習慣化しエスカレートしてしまう。
• 過去に痴漢行為をして「バレなかった」「特別な感覚を得られた」という経験があると、その記憶が新たな行動を誘発することがある。
こうした要因を変えていくためには、単に「やめよう」と決意するだけでは不十分であり、具体的な方法を学ぶことが必要です。
認知行動療法(CBT)とは?
認知行動療法(CBT)は、思考(考え方)と行動の関係に注目し、問題となるパターンを修正するための心理療法です。痴漢の再犯防止においては、行動を引き起こす考え方や習慣を見直し、衝動をコントロールする力をつけることを目的とします。
CBTは以下のようなプロセスで進められます。
① 自分の行動パターンを把握する
まず、自分の行動がどのような状況で起こりやすいのかを明確にします。
• どんな場面で衝動が強くなるのか?(例:混雑した電車、特定の時間帯 など)
• 行動の直前にはどんな考えが浮かんでいるのか?(例:「このくらいなら大丈夫かもしれない」)
• 過去に行動を起こしたとき、どのような気持ちだったか?
こうした振り返りを通じて、自分の行動のきっかけや特徴を理解します。
② 考え方を修正する
CBTでは、行動を後押ししている考え方を見直し、新しい視点を身につけます。例えば、
• 「相手が気づいていないから問題ない」 → 「相手は恐怖で動けないだけかもしれない」
• 「この程度なら問題ない」 → 「どんな行為であれ、相手の同意がない時点で問題がある」
• 「もう変われない」 → 「行動は変えることができる」
こうした新しい考え方を習慣化することで、行動を変えていきます。
③ 衝動をコントロールするトレーニング
衝動が生じたときに、それを抑えるスキルを身につけることで、再犯のリスクを減らします。
1. STOPテクニック
• 衝動を感じたときに、「STOP!」と頭の中で叫び、一度立ち止まる。
• 別の行動(深呼吸をする、数を数えるなど)に切り替える。
2. マインドフルネスの実践
• 衝動が起きたときに、自分の状態を客観的に観察する練習を行う。
• 衝動に流されず、冷静に状況を判断できる力をつける。
3. 行動を変えるトレーニング
• 痴漢の衝動が出そうになったら、すぐにスマホでニュースを読むなど、別の行動を取る習慣をつける。
• 事前に「危険な状況に近づかない」と決めておく。
④ 予防策を確立する
再犯防止のためには、自分が行動を起こしやすい環境に身を置かないことも重要です。
• 混雑した電車には乗らない、女性専用車両を避ける
• 一人で考え込まず、信頼できる人に相談する
• カウンセリングを定期的に受ける
CBTによる再犯防止の効果
認知行動療法は、国内外で性犯罪の再犯防止プログラムとして導入されており、考え方や行動パターンを修正することで、再犯率を低下させる効果があると報告されています。
CBTは単に「やめさせる」ための方法ではなく、新しい行動の選択肢を増やし、自分自身の人生をより良い方向へ導くための手段でもあります。
まとめ
痴漢行為の再犯を防ぐためには、「決意」だけではなく、具体的な対策と習慣化が必要です。
認知行動療法(CBT)を通じて、
• 行動を引き起こすパターンを理解する
• 考え方を修正し、別の視点を身につける
• 衝動をコントロールする力を高める
• 環境を調整し、危険な状況を避ける
といった取り組みを続けることで、再犯のリスクを減らすことができます。
認知行動療法カウンセリングセンター大阪店では、専門のカウンセラーが一人ひとりの状況に合わせた支援を行っています。もし「やめたいのにやめられない」と悩んでいる方がいれば、ぜひ一度ご相談ください。変わるための第一歩を、一緒に踏み出しましょう。
認知行動療法カウンセリングセンター大阪店
https://osaka.cbt-mental.co.jp/
——筆者情報——
岡村優希
株式会社CBTメンタルサポート 代表取締役
認知行動療法カウンセリングセンター代表
公認心理師、臨床心理士、認定行動療法士
個人事業主として私設カウンセリングルームの運営を経て、株式会社CBTメンタルサポートを創業し、メンタルヘルス支援者向けのサービス事業を展開している。主宰しているオンラインコミュニティ『認知行動療法の学校』の会員数は約400名。
さらに、カウンセリングルームを全国に5店舗運営しており、全国展開を目指している。
◆執筆書籍
「臨床心理学 〈123(第21巻第3号)〉 問いからはじまる面接構造論 「枠」と「設定」へのまなざし」金剛出版
「遠隔心理支援スキルガイド」 誠信書房
◆テレビ出演
読売テレビ「かんさい情報ネットten.」2024年7月4日
「あなたの味方!お役に立ちます」のコーナーに高所恐怖克服のための専門家として出演
◆雑誌掲載
「からだにいいこと」 2022年12月号、2023年2月号
◆近年の講演実績
2024年2月21日
広島大学医学部にて「セルフケアに役立つ認知行動療法入門」についての講師
2023年2月9日
NTT PARAVITA株式会社にて「認知行動療法」をテーマとした社内研修の講師
2022年7月6日
筑波大学医学医療系精神医学の勉強会で「パニック症の認知行動療法」についての講師
その他、学会発表多数
